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小説版「百年後の博物館」ロゴ
イントロダクション
第1回 貝塚市立自然遊学館
第2回 エドモント・テーラー記念博物館
第3回 ミイラ猫の博物館
第4回 カルバーシティ歴史博物館
第5回 百年後の博物館
第6回 餃子ミュージアム

オブジェ
第6話 餃子ミュージアム
6−1 人生は小説よりも滑稽だ。

人生は小説よりも滑稽だ。と「ガープの世界」の主人公は言ってたが、僕もその意見には大方賛成する。しかし、実際にその滑稽な人生というものに直面すると、人は往々にして慌てるし、たじろぎ、後悔し、時には赤面したり、死んでしまいたくなったりする。そんなんだったら、家でこつこつ小説を書いてる方がマシなんじゃないかとさえ思える。で、実際にそうして部屋に籠って小説を書いてると、それはそれでこれって単なる人生の劣化作業なんじゃないかと思えてきたりする。実にややこしい。

2月上旬、「百年後の博物館」会場ロビーに話を戻そう。
僕は煙草を吸いながら吉沢さんを待っていた。しかしそこにはタカハシマサコと名乗る女性が現れ、「あなたの書いてる小説の内容のことでお伺いしたいことがあります」と僕に告げた。それから、決して怪しいものではない、ただちょっと聞きたいことがあって少しお時間をいただけませんか、と公安警察のようなことを宣った。怪しいか怪しくないかはこちらに決めさせてくださいと言いたかったが、まあ奇麗な女性だったのでお時間をあげることにする。どうせ吉沢さんはもう現れないだろう。あとは野となれ山となれだ。
と、ここまでが前回のあらすじ。彼女は的確に用件を伝えた。
—あなたの小説に出てくる行方不明の男の子、私が関係してるのかもしれません。あなたはあの小説、何かをヒントに書きましたか。もしこれが失礼な質問でしたら謝りますが、あなたはあの男の子のことを個人的に知ってるのではありませんか。

これは長い話になりそうだったので、どちらともなく、お茶でも飲みましょうということになった。外に出ると大雪だった。上空からぼた雪がぼたぼた降ってきている。あっという間に視界は白くなっていく。「大阪は雪よく降るんですか?」と聞かれ、「いや初めてです」と答えた。大阪に住んで10年経つが、こんな日本海のような降り方は初めて体験する。
こういうのもまた小説的だ。
どこの喫茶店も雪宿りの人たちで混雑していた。タカハシさんが、あれなんですか、と指差したのは「餃子ミュージアム」だった。
食べます?と言うと、はいと彼女は答えた。初対面の人とお茶をする場所にしてはアバンギャルドすぎるかなとも思ったが、ここも一応博物館だし、こうなりゃ博物館と名の付くところにはどこにでも飛び込んでやれという気持ちになっていた。


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