

HEPの裏側、ボーリング場とフィットネスクラブに挟まれたビルの3階に「餃子ミュージアム」はある。某大手ゲーム会社が運営しているだけあって、1階と2階はゲームセンターになっている。プリクラとUFOキャッチャーに興じる女子中高生たちを横目で通り過ぎると、昭和レトロな町並みが突如現れる。そこに日本全国の有名餃子店の屋台が軒を連ねている。一角には「チーズケーキ博覧会」という名前の物産展までやっている。
これもまた小説的だ。UFOキャッチャーと昭和と餃子とチーズケーキ。こんなマジカルでシュールな組み合わせあるだろうか。相当狂ったSF作家でもなかなか思いつかない。しかしこれが日本の代理店の凄みだな。
僕らは学食のようなテーブルに腰掛け、さらにマジカルなことに客は僕ら以外には誰もいなかった、「ニイハオ」と「玄武」から焼き餃子を一人前づつ、「慶楽」の水餃子を二人前注文し、タカハシさんはウーロン茶、僕はビールを自分で運んだ。
「タカハシさんとお呼びしたらいいですか」と僕は尋ねた。
「はい、どうぞ」とタカハシさんは餃子を食べながら答えた。
僕はなぜか、この人はそんなに悪い人じゃないなと思った。ニラとかニンニクの臭いが充満した誰もいない「三丁目の夕日」で、僕らはしばらく黙々と餃子を頬張った。外では今も雪が降り続いているのだろう。店内にはうっすらとラジオが流れていて、1940年代のリズム&ブルースが聞こえてくる。どこか遠い場所に連れてこられてしまったかのような錯覚に陥る。しみじみ。
「餃子おいしいですね」とタカハシさん。「ひさしぶりです、餃子食べるの」
「最近の餃子は危険ですから」と僕は答えてみた。軽い冗談のつもりで。
きょとんとした顔でタカハシさんは僕を見ていた。
「あ、毒餃子のニュース」と僕はあわてて付け足した。
「昨日、日本に戻ったばっかりで、毒餃子ってのが流行ってるんですか?」
「別に流行ってるわけではないです。なんでもありません」
まったく恥ずかしい。軽い冗談が僕は苦手だ。じゃあ重い冗談が得意かと言われるとそうでもないんだけど。しかし今のでわかった。タカハシさんは海外に住んでる。そこでキャリーバックを持っているというわけだ。空港からそのままやってきたのだろうか。そこで初めてバックの側面に「FRAGILE(壊れ物注意)」のテープが貼ってあることに気づいた。あの砂はこのことを暗示していたのか? 僕がそのテープに目を奪われてると、タカハシさんは気を利かせて説明した。
「アメリカに住んでるんです。ロスです。用事があって、昨日、こちらに戻りました。もう今日帰ります」
「何時の便ですか?」
「7時に関空です。あまり時間はありませんね」
タカハシさんは口元を紙ナプキンで拭きながら言った。「どこから話していいのかわかりませんが、思いつくままに話してみます」。
そしてポケットから一枚の紙切れを出した。「まずはこれ読んでもらえますか」と、検察官が裁判長に新証拠を提出するような恭しさで手渡してくれた。
僕は丁重に受け取りそれをめくった。ネットの新聞記事が印刷されたものだった。

