
気づくと少年はもとの場所にいた。
サビ男は何事もなかったように線路脇に立って、貨物列車がゆっくり通過するのを眺めている。サビ男は大声で少年に呼びかけた。
「見てみろよ、ケツが見えないぜ。世界でも有数の長大な貨物列車、サンタフェ鉄道だ」
確かに鉄の壁はどこまでも後ろに続いていた。のんびりと目の前をその壁が移動していく。がたごと、歌いながら。
「ねえ、サビ男」と少年は嬉しそうに呼びかけた。
「なんだ」
「僕は今すごい能力を手に入れたよ。僕は未来を変えられるんだ」
サビ男は、きょとんと少年を見ていた。
やがてバスの出発時間になり、少年は結局、その列車の最終車両を見ることはなかった。
それからバスは夜に向かってまっすぐ進んだ。地平線に太陽が溶けこむように沈み、長い夜がやってきた。
車内灯は消え、乗客の多くは毛布を頭まで被って眠りについた。
途中、一度、バスは停車したがそこで降りたのは例のバスを間違えた黒い婆さんだけだった。婆さんは震えるように自分の荷物、小さなボストンバックひとつを抱え、タラップを降りていった。運転手は何ひとつ声をかけなかった。
あの婆さんはここで一晩明かすのだろうか。
窓ガラスの向こう、街頭の下、婆さんが心細げに立っているのが見える。バスはすぐに動きだし、婆さんを暗闇に置き去りにする。カーブを曲がると、その姿は視界に消えた。乗客の中で少年ただひとりがその一部始終を見ていた。車内は静かだ。誰かの寝息だけがヤスリで爪を研ぐ音に聞こえた。
少年はあの婆さんの未来について考えた。自分の未来については考えることはできないが、他人の未来なら容易かった。きっとあのバス停に婆さんの家族が、たとえば娘が迎えにやってくるはずだ。暗闇の中、ヘッドライトがひとつ見える。孫もきっとその助手席にいるだろう。夜中にかり出されたから、孫はすやすや眠っているかもしれない。娘は、婆さんを見つけたらきっと小言のひとつやふたつは言うだろう。そのくらいは許してやろう。暖房の効いた暖かい車内で婆さんは久しぶりに孫を見つけ、顔をほころばす。起こさないように、静かに車は正しい道のりに向かう。
少年は、自分の能力が正しく、効き目があったかどうかは見定めることはできないが、きっとうまくいってると信じる。
それから、夜が開ける直前に、少年は眩しいイルミネーションを前方に見つけた。暗闇の荒野の中に突然出現した人工的な煌めき、宝石をバラまいたような光の乱反射に、心臓が高鳴った。そしてそれをいち早く見つけたことに対する喜び。運転手はただひとりの徹夜の小さな旅人に、気を利かせて街の名前を教えてやる。
あれがラスベガスだ。
