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バスの停車している辺で一悶着が起きていた。
運転手と客のひとりである黒い顔の婆さんが口論を始めたのだ。もっぱら大声で騒いでいるのは婆さんの方だった。運転手はなだめようと必死だった。他の乗客は遠巻きに見物をしていた。トリは腰を上げ、尻の砂を払って2人の方に近づいていった。どうやら仲裁に入るようだ。
少年は巻き上がった砂埃でくしゃみをした。

「きみ、日本人かい」と後ろから声がした。それは少年にわかる言葉だった。髭をたくわえた長髪の青年が立っていた。「日本人でしょ」
少年は「たぶん」と答えた。
「ずっとそうじゃないかなあって思ってたんだ。で、今くしゃみしたでしょ。はっくしょんって。それでわかったの。ああやっぱり日本人だって」と長髪は嬉しそうに早口でまくしたてた。「いくつ?」
「14歳です」と少年は答えた。
長髪は随分と驚いていた。そうは見えないよ、20歳かそこらかと思った。少年は、自分でも本当の年齢はわからないんだ、と言おうとして止めた。
長髪を無視して、視線を変えると婆さんが今度はトリに向かって苦情を申し立てていた。トリは相づちを打って真剣に耳を傾けている。
「あのおばあちゃん、間違ったバスに乗っちゃたんだよ。それを運転手のせいにしてんだ。可哀想だよね、どっちも」

そのあと長髪は、自分は日本でバンドをやってるんだということ、ニューオリンズという街に行ってそこで暮らしたいということ、日本には3年は帰るつもりはない、でもどうなるかわからない、不安だ、でもその不安が今は最高に楽しい、というようなことを一気にまくしたてた。
最後に、もしよかったらしばらく一緒に行動しないか、と言われた。
少年は、その提案の意味がわからなかったので、黙っていると、長髪の青年は、ごめん今のは忘れて、と言って去っていった。
なんだったんだろう。


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