
線路の先から貨物列車がやってきた。
サビ男は線路の上に毅然と立っていた。まるで子供のように、初めて見る列車に感動しているようだった。
列車は汽笛を鳴らし、注意を促した。すぐに到達する距離だ。逃げないと轢かれてしまう。少年はサビ男があの列車に轢かれ、粉々になる姿を想像した。そうなれば全ては元に戻るのではないだろうか。少年はあまりにもサビ男のことを信用し過ぎている。サビ男こそ、全ての元凶なのではないだろうか。そう考えても不思議ではない。
サビ男がいなくなれば、僕は助かるんじゃないか、そう思った。サビ男さえ、消えてしまえば。
そのとき、少年の目の端に黒い固まりが映る。線路の傍にその物体は転がっていた。
列車は汽笛を何度も鳴らしている。サビ男にはその音が聞こえていないのか。もう目の前に迫っている。
しかしそれよりも、少年は、黒い固まりに注意が向く。じっと見ると、それは猫の死体だった。猫の死体が干涸びてミイラのようになっている。
サビ男は、動かない。
列車にくちづけでもするつもりなのか、先頭車が迫ってくるのをじっと見つめている。もう目の前だ。
少年は、それでもなお、呼び声を出さない。猫の死体に目が釘付けになっているからだ。毛は抜け、皮膚はカサカサに、黒く窪んだ眼孔は何も見ていない。全体の印象はドライフルーツのようだ。猫だったもののからからの残骸。
それからサビ男は、少年の方を向く。表情は相変わらず読み取れない。同時に汽笛が空気を震わす。
列車がサビ男に正面から激突した。ガラスの彫刻が割れたようにサビ男の体は粉々に砕け散った。茶色い肉片が空中に舞った。何もかもが一瞬の出来事で、少年は硬直する。
