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小説版「百年後の博物館」ロゴ


どこでもない場所で、ミャアという声がする。

足元にミイラ猫が立って少年を見上げている。
皺だらけの干涸びた猫の死体は、「ぎゃぎゃらぎゃぎゃ、ぎゃ、くう、ぎゃら、ぎゃぎゃ、ぎゃ」と絞り出すような声で泣いた。
しかし少年の耳にははっきりと「キミがサビ男を殺したんだ」と聞こえた。「キミはどうしてサビ男を助けなかったんだ?」と。
「僕は、こんなところに来たくなかったんだ」と心の中で答える。
ミイラ猫はなおも続ける。「ぎゃぎゃ、ぎゃぎゃ、ぎゃあ」
「本当の父さんにも会いたくないし、なにも知りたくない」
「ぎゃぎゃ、ぎゃ」
「どうせ知ったところで全部忘れちゃうんだ」
「くぎゃ、くぅぎゃ」
「僕はもう帰るよ」
「ぎゃぎゃ」
「家にだよ」
「ぎゃぎゃぎゃら、ぎゃ」
「わからない。本当の家なんてわからない」
ミイラ化した猫は少年の靴先を舌で舐める。少年は、愛おしくなって、しゃがみ込み、ミイラ猫を抱きしめる。かすかな暖かみがあり、息づかいを感じられる。指に力を入れれば皮膚を破って体液が溢れてきそうだ。
「ねえ、僕はなんのためにここにいるんだろう?」
ミイラ猫は今度ははっきりとした言葉で答える。「そんなことは私も知らんよ」それはまるでアニメの吹き替えのようだった。「ただし、サビ男は殺しちゃいけないよ。彼は昔のキミに起きたことは全部知ってる。だから一緒にいる限り、キミはなにも心配する必要はないのさ。しかし未来のことは彼でもわからない。それは全部、キミが決めるんだ」
「でももう死んじゃった。サビ男は、列車に轢かれて死んじゃった」
「それもキミが決めればいいだけだよ」
そんなに何もかも決めろと言われても。
「決めるのが嫌なら、いますぐやめちまえ。それこそ死んでしまった人間のすることさ」


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