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小説版「百年後の博物館」ロゴ


暗闇の中、静寂の中、ゆっくりと眠りの淵に落ちていく。
携帯電話のバイブレーションが反応する。手に取ると、電話番号だけが090−△△△△—○○○○と出ている。名前がないということは、知らない人物だ。間違い電話かもしれない。
時計は3時33分。留守番電話になる。僕は受話器に耳をあてた。相手は黙ったまま。お互いがお互いの存在を知りつつ、お互いの息づかいに耳を澄ましている。僕は耐えきれなくなって、電話を放り投げた。天井を見上げる。暗闇の中に目を凝らす。
もう眠れない。こうなったら朝までつきあうしかない。
暗闇をじっと見つめていたら向こうからも誰かが覗き込んでいるのがわかった。
行方不明の吉沢さんの弟か、もしくは吉沢さん自身なのか。

吉沢さんもいま寝ているのだろうか。弟を突然悪魔に奪われた女性は夜、眠れるのだろうか。彼女が4年間、一睡もしていないことを想像する。それは現実的・肉体的にはあり得ないことだ。もしくは4年間、眠りっぱなしなのかもしれない。そっちの方が合理的だ。彼女は4年間、ベッドで生きたまま眠っている。まるでミイラのように。またミイラだ。もうミイラは十分だ。

夢の中で、ミイラ猫が出てきて、僕を博物館に誘った。

昼過ぎに起き、メールソフトを開く。受信箱にメールが1通。送信元はHEP HALLだ。「これでいきましょう」と返事があった。「それとこれはテーマソングです」とMp3ファイルが添付されている。デスクトップに取り出してから、機械の中で解凍する。解凍、という響きがいい。まるで氷付けのマンモスみたいじゃないか。お湯をかけると音楽が流れた。

それはこんな曲だった。PLAY


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