

早朝、少年は浴槽に砂が溜まっているのを見つけた。サビ男は、俺の体から出たものだ、と説明した。そして、のんびり話をしている時間はない。急いでチェックアウトしなくてはバスに間に合わない。と付け足した。
日の出前の人通りの少ない大通りをバス停まで駆け足で歩いていると、警察官の一群に出会った。ひと際大きなヤシの木の下に、ロープが張られ、現場検証をしている。何か事件があったのだろうか。目と鼻の先にハミングバードの看板が見えた。
少年は白い息を吐き出しながら先の続きを話しだした。
「もしかしていつもお風呂場で寝ているの?」と聞いた。
「そうだ。案外空の浴槽は寝やすい」とサビ男。
「で起きるといつも砂がそこに溜まっているの?」
「砂じゃなくてサビだと思う」
「そうかサビ男だもんね。シャワーは浴びないんだよね」
「ああ、水は苦手だ」
バス停につくと、グランドキャニオンに向かう便はすでにエンジンを温めて待機していた。少年は急いで乗り込み、出発の時間を確認し、それから乗客を確認した。そこにトリの姿はなかった。
遅れて日本人の青年がやってきた。長髪の男だ。彼は少年を見つけると慌てて近づいてきて開口一番こう言った。
「あのインディアンが殺された」
少年は警察官の姿を思い出した。
「強盗に遭ったらしい。泥酔しているところを襲われたようだ」と長髪は続けた。興奮しているようだった。
少年は、自分の愚かさを呪った。いやそんな単純な感情ではなく、もっと複雑に困惑した。この日本人は、何かを大きく間違えてると思った。少年は、とりあえず自分の目で確かめてみたいと思い、最後尾にいるサビ男の方を振り向いて、それからバスを降りようとした。
「行かない方がいいと思う」と長髪。「あの男の所持金は全部盗られていた。そして東洋人の男の子が一緒にいたという目撃者もいて、きみは探されている。ここで事情を聞かれたら、君と彼の関係はよくわからないが、根掘り葉掘り聞かれることになると思う。少なくとも2、3日は足止めを食うことになるだろう」
どうしてもっときちんとトリの未来を想像してあげなかったのだろう。少年は、あれからトリがとった行動を想像しようとしたが、それはとても難しかった。バーでしこたま酒をかっくらって、再びあのカジノ「ダブルフォーチューン」に戻ったのだろうか。それとも豪華なホテルの一室で、飲んだことのないシャンパンを開けて、たまたま外に出たときに襲われたのだろうか。
決めかねてるうちに、バスは動き出し、少年は目をつぶった。

