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オブジェ
4−2 インディアンのトリは、スロットマシンの前で歓喜の雄叫びをあげていた。

インディアンのトリは、スロットマシンの前で歓喜の雄叫びをあげていた。少年は隣に座り、マシンの口から吐き出されていく硬貨の山を得心した様子で眺めている。ギャラリーたちは羨望の眼差しでこの奇妙な2人組、東洋人の子供とインディアンの青年、を取り囲んでいる。人生で一度も訪れなかった幸運が今まさに黄金色の音を立てトリの手元に転がり込んできた。
例の甘ったるいタバコをくわえたトリの口元からは、何度も同じフレーズが発せられた。少年はその言葉の意味はわからなかったが、どうやら彼が信じる神様に感謝をしているようだ。
少年は、神様じゃなくて僕に感謝して欲しいのになあ、と思った。

グレイハウンドバスがラスベガスのバスディーポに到着したのは朝の6時だった。
それから少年とトリは、近くのカフェに入り、コンチネンタルブレックファーストという舌を噛みそうな朝食をとり、それからすぐにカジノに繰り出した。早朝だというのに、カジノは観光客でにぎわっていた。おそらく24時間営業なのだろう。徹夜でスロットを回していた人々の興奮は徐々に薄らいできていて、代わりに目覚めのワンゲームに興じようという酔狂な人たちがやってきていた。
人々はだいたい、両手に2つのコップを持っている。ひとつにはコーヒーを、ひとつにはコインを入れて。

トリと少年がなぜ行動を共にしているのか。
バスはいったんラスベガスで終点になり、それぞれの目的地に向けた別便がやってくるのを待つことになる。グランドキャニオン行きは、実際にはグランドキャニオンに一番近い町Flagstaff行きの便は、1日ここで待たなくてはいけない。サビ男はそう説明すると、もしも飯を食いたいならあの男、それがインディアンのトリだ、に着いていけばきっと食わしてくれるだろう。なんせあいつはお前の30ドルを盗んだままなんだからな。と助言した。そして少年はその通りにした。
「お前が決めてくれたおかげで、あのインディアンはそう悪いやつじゃなさそうだ」サビ男はそう言って散歩に出かけた。


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