indexロゴ百年後の博物館ロゴ
小説版「百年後の博物館」ロゴ


ハミングバードをモチーフにした看板が輝いているホテルの1階にそのカジノはあった。名前は「ダブルフォーチューン」と言った。
トリは、少年から盗んだ3枚の紙幣を見せて、「倍にして返してやる」と約束した。そして実際に、その約束は実行されることになるのだが、それはそもそも少年の仕業だ。少年はすぐにカジノの特性を理解し、手に入れたばかりの能力を試すのにここほどうってつけの場所はないと確信した。少年はこのすばらしい能力、他人の未来を想像すればそれが実現する、を証明してみたかったのだ。そしてそれは予想以上の結果として目の前に現れた。

少年は簡単にトリの未来を見ることができた。彼が喜ぶ姿と、スロットの3つの窓に同じ絵柄が揃うことさえ想像すればいい。そして実際にそうなると今まで体験したことのないような浮遊感が体を包み込んだ。人生で初めて何かを手に入れたような気がした。
少年はトリにはこの能力のことは黙っていた。きっと信じてくれないだろうと思ったのだ。
あまりにもトリが騒ぐものだから、ギャラリーが集まってきて、その中には日本人の長髪の青年もいた。
「この人は知り合いなの?」と長髪は尋ねた。
「うん」と誇らしげに少年は答えた。
それから長髪の日本人は隣に立って、ずっとトリの勝ち続ける姿を見ていた。少年は、長髪がいまだに僕と行動をともにしたいと思ってるのだと察した。しかし、その理由はわからない。気づくと長髪は消えていた。

少年とトリがようやく外に出るともう夕闇が迫っていた。半日近くカジノにいたことになる。トリは少年に盗んだ30ドルと、大幅な利子を差し出した。少年はそれを受け取り、リュックにしまった。これでこの旅も、ずいぶんと過ごしやすくなったはずだ。
トリはベンチに腰掛け、ずいぶんと長いこと身の上話をしていた。
内容はわからないけど、途中に何度も声を詰まらせていたからきっと大事な話をしていたんだろう。
いつの間にかサビ男が立っていた。トリの話を要約してくれた。「この国を発見したのはお前たちではない。俺たちだ。だから誰にもその権利を奪われる筋合いはない。そう言ってる」
「うん」と曖昧な返事をする少年。
「ホピ族という部族の男らしい。彼らは政府の命令で長い間居留地に閉じ込められている。そこで部族の踊りを見せたり、木彫りのアクセサリーを売って生計を立てなければいけない。それは屈辱だ。魂をドルと引き換えにしている。部族の伝統を観光客相手の商売に堕落させた罪は重い。そんな両親や友人を見て、彼はそこを抜け出した。アメリカ中を放浪してわかったことは、この国の人間は、それは白人も有色人種も、誰もが魂を売って生活してるっていう事実だった。別にインディアンだけがそうしてるわけではないという現実は、彼を無気力にした。生きていくことを半分あきらめたような生活をロスアンゼルスで3年して、とうとう元の場所に戻ろうと思ったらしい。しかし彼は今日大金を手に入れた。そのことでまた悩みだしたそうだ」サビ男は笑った。
少年は頷くこと以外はしなかった。
「ところでいつからお前はラッキーボーイになった」とサビ男は言った。
「未来を考えればいいだけなんだ。それだけ、その通りのことが起こる」
「じゃあもっと稼がせてあげればよかった」
「それは人が集まってきて恥ずかしくなったから」と少年は早口で答えた。

そういえば今日はまだ一度も頭がおかしくなることがなかった。フラッシュバックも、音楽が聞こえてきたりもしていない。


←前のページへ │ ↑このページのTOPへ │ 次のページへ→
indexロゴ百年後の博物館ロゴ