タテタカコ(以下タテ):自分がなくなっていくということに対して、なくなりたくないよ!という気がすごいあるんですよ。それを黒田さんの本を見たときに、ホッとして。あっ、消えないんだ~っと思ったら安心しました。

黒田武志(以下黒田):あぁ、それは僕の中にもすごくあるんですよ。小さいときに、死んだらどうなるかというのをよく考えてて。想像するじゃないですか、暗闇のようなものを。『死ぬ瞬間』ってどこが死ぬ瞬間なんだろう?って。心臓がとまる瞬間なのか、脳がとまる瞬間なのか。そのうちに「死ぬ」というのは変化してるだけだと思えるようになって、あぁこの考えはすごいラクかも、って。そう考えると機械が壊れるというのは使いにくくなるだけで、古くなっていくことは変化していくだけって思えるようになった。変化することが未来だし、変化せずにずっと止まってるとそれは過去になってしまう。未来と過去とが一回転して繋がってて、それも「sandscape」っていう作品のコンセプトとシンクロするなって思ったんです。

タテ:もうなくなっちゃうんだ、消えちゃうんだ、っていうのじゃなくて、もしかして何か・・・離れてしまったものが、もしここにあるんだったらそれはすごい嬉しいことだなぁ。

黒田:そうなんですよね。例えば、小学校のときの同級生がいて20~30年以上会ってないとするでしょ。そうするとむこうが死んでるかどうかはわからない。もし死んでたとしても僕の中にはその情報がないから、ずっと生きてたりする。たぶんそれもそういうことなんだな~って思って。フロッピーディスクとかビデオテープとかって鉄粉じゃないですか、鉄粉が磁気を帯びることで記憶できるということは、サビとか鉄にももしかすると記憶があるんじゃないか、それをヘッドに通したら何か喋るかもしれない(笑)。じゃあ、血も鉄が入ってるから、記憶が脳だけじゃなくて全身にある、血液の中の鉄分の中にも記憶があって駆け巡っているかもしれない、とか考えてると面白いなぁって。

黒田:「イキモノタチ」は僕のヘビーローテーションなんです。作品集をつくっているときにずっと聴いてました。ちょっとした言葉遣いがけっこうグサグサきて、少年性みたいな、ストレートさが痛々しくもあり、僕にはビシビシくるところがあった。

タテ:憧れるものって、普通だったら純粋だったり、完璧だったり、まっさらだったり、真っ白だったり、まっすぐだったり。知らずにそういう方向に自分が向かっちゃうから、体の中に溜まっているいろんな老廃物とか不純物みたいな部分を排除したくなってくる。自分の体の中の一部なのに、それすらも何とか追いやってしまおうと思ってたんだなぁって黒田さんの作品を見てたら思いました。

タテ:全然違う種類のものがひとつの作品になってるじゃないですか、それが自分の見てる風景や記憶と繋がるというか、普通に見たら脈絡がないと思うかも知れないのに、そこを繋げてくれるというか。

黒田:どっかでひっかかってくれたらいいな、って。例えば枯れてる花とボロボロになって錆びた鉄が横に並んでるとけっこう似てたりする。流木とかも骨と似てたりするし。別物と思ってたり区別してたものが本当はすごく似てることに気づいて欲しくて。それがもっとボロボロになって何百年後かに箱の中に砂しかない状態になって初めて完成、みたいなイメージなんです。

タテ:あ~、終わらないんだ。

黒田:で、何で箱の中に砂だけ入ってるんだろう?って見た人が思ったら面白いかな、って。

タテ:これはわたしだけが聞くのはもったいないですね(笑)。自分の中で窮屈にしてたものが、黒田さんの作品の中で、わ~っとなったんですよ。許されないこともいっぱい残っちゃうんだなぁ、自分の中の。

黒田:詩はどうやって書いてるんですか?

タテ:今までは思ったことを何も考えずに書いてそのままだったんですけど、前回(のアルバム?)ぐらいから書き貯めてた詩がなくなって。期限までに書こうと思っても書けないので、老廃物とかも出しちゃって最後に諦めてから出てきたことを書いてます。自分で意味わからずに歌ってる歌がいまだにあるんですよ。それで歌っていくうちに10年経ってわかることとかがあって、ある意味無責任なんですけど意味わからずに歌ってるんですよ。

タテ:作品にあんまりタイトルをつけない、っておっしゃってたじゃないですか。

黒田:つけないです。名前で固定されるのがイヤなんですよ。(作品集の)後書きにも書いたんですけど、砂粒にも細胞にも名前はないので。さっきの話と同じで、違うものに変わっていくから、たまたまそのときの名前でしかないので、展覧会のタイトルはあるけど、違うときは違うものになるってことを作品でもしたかったんです、これ(作品)は細胞や砂粒の一個みたいなもので何かタイトル付けたくないなぁ、って。

タテ:人間だけが特別とか自分だけが特別とか案外思いがちだけど、ツアーでいろいろ回っていく中で、実は人間の他に生きてるものっていっぱいあって、自分はただの一員というかその一部なんだ、石も生きてるんだってとらえるようになった。今居るだけでも影響しあってるんだ、って。

黒田:僕もまったく同じです。ちゃんと科学的に鉄粉で記憶できたりすることとかがわかってきて、僕らが思っている『生きてる』とは違うけど、科学的にもありえるかもしれないっていうのが面白い。で、タテさんのアルバムの中で、「イキモノタチ」っていうタイトルはいいなぁ~って思った。僕のは「死んでるものたち」だなぁ~って(笑)。でも、タテさんと僕が言ってることは同じなんだろうなって。

2007.12.6 office sandscapeにて