
その夜、少年はベッドの中、廊下を挟んだ居間から母親のすすり泣く声を聞いた。それはこういう順番だった。パソコンを叩く音が聞こえ、電話が鳴り、囁き声で会話を交わした後、突然、泣き始めた。少年は自分のことで泣いてるのだろうと思った。その泣き声を聞いていると、胸が苦しくなった。
電話の相手は父親なのだろうか、それともコーヒーショップの男なのだろうか。
少年は気を鎮めるために、おちんちんを触り続けた。そしてそのまま眠りに落ちた。
窓ガラスを叩く音で目が覚めた。カーテンを開けると、向こうにはサビ男がいた。夜明け前の群青色が窓枠の中に四角く切り取られていた。
「わかったよ」と唐突にサビ男は切り出した。「ようやく調査が終わった。約束しただろ。忘れたのか?」
少年は記憶の棚を開けようとしてみたが、鍵がしっかりかけられて、びくともしなかった。
「いいよ、気にすんな、とにかく行こう、母親が起きてくる前に、会いに行こう。お前の本物の父さんが見つかったんだ」
「どこに?」
「グランドキャニオンさ」とサビ男は言った。
