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どうも。プロデューサーの星川です。
展覧会が終わって、小説の連載が終わって、やっとこのプロジェクトも終結を迎えたので、3月の初旬に、始まりと同じく黒田さんのオフィスで、黒田さんとウォーリーさんと話をしました。ここから生まれたいろんなものは、きっとどこかで次の展開を迎えるのでしょうが、「百年後の博物館」はひとまずここで一区切りです。展覧会の様子はウェブアーカイブにもしましたので、そちらも併せてお楽しみ下さい。

オブジェ
対談:黒田武志 × ウォーリー木下
●小説のこと

ウォーリー WEB小説っていうのもあったし、日記っぽくブログ読むノリで読んでもらえるように、あんまり力入れないでなるべくノリだけで毎回書こうって決めてたんですよ。
黒田 一応終わり方は考えてたの?
ウォーリー 「百年後の博物館」の初日に、僕がもう片方の女主人公と会うっていうところは決まってたんですよ。もう一方の話はグランドキャニオンで終わることになってました。黒田さんの作品のあの風合いって、僕が今まで行ったことある景色の中でいちばん近いのはグランドキャニオンなんです。サビ男の話は、基本的に僕が20歳のときに通った道のりを思い出して書いていたので。
星川 意外にそっちも私小説やったんや。
ウォーリー 実はそうなんですよ。そのいつか書きたかった15年前、16年前の風景と、今回の展覧会のコンセプトが合っていて。もちろん僕は、日本人の長髪の青年的なポジションで、すごい寂しそうにラスベガスとかひとりでうろうろしてたんですけど(笑)。

黒田 びっくりするシンクロニシティがいろいろあったね。
ウォーリー それがすごい楽しかったですね。第1話を書いたときに、貝塚のことや「たこぼうずもなか」のことを書いたら星川さんが「それ、うちの実家ですよ」って(笑)。井田くんが貝塚出身っていうのも忘れてたし。半年かけて書いたからその時々に興味のあったこと、例えばインディアンを出したくて、勉強するためにインディアンの本を何冊か読んだら黒田さんの作品観と近い文章が出てきたりするんですよ。
黒田 僕もインディアン好きやから、ミイラとか。
ウォーリー そう、ミイラもね。ミイラのこと書こうと思ったらちょうど神戸で展覧会やってるし。
星川 ちゃんとリアルタイムにシンクロしてる感じがあって、それが毎月続くのがウエブ小説ならでは、連載ならでは、でしたね。
黒田 僕の知り合いは「ウォーリーさんは隠し子おるの?」って言ってたよ。あれはフィクションやけど一人や二人はおってもおかしくないとは思うよって言っといた(笑)。
ウォーリー どんな説明やねん(笑)。
黒田 あの辺の世界一団とかSundayではあんまり書いてこなかった、シモネタとかダークな部分も含めての話を書いてくれて、小説を頼んで良かったなと思った。
ウォーリー たぶんセリフは得意なんですよ。でもちゃんとまじめに小説を書くのは初めてなので、せっかくだからセリフ、会話には頼りたくないと思っていたし、そういう意味では小説だからできたことはたくさんあって、ほんとにすごいいい経験でしたね。この半年ずっと言葉のことばっかり考えるんですよ、日々。
黒田 お芝居のときは言葉考えてないの?
ウォーリー 正直考えてないですね。戯曲は言葉じゃないセンスで書くとこがあって。演出的なこと、これを立体化したらって想像して書くので。書いたものをそのままお客さんが読んでくれる、というのは難しいと思いました。
星川 書いた以上、細工できないですもんね。
ウォーリー 小説は今後も書いていきたいんですけど、そのことについて考え続けないといけないなって思いましたね。
星川 展覧会の小説っていう意味では、全編にわたって黒田さんの作品をイメージする文章になってたのがうれしかったです。
黒田 直接的じゃなくて全然違うとこから攻めてて、でも繋がってる感じがあったしね。最終回のサビ男が100年後に行きたいって言う、あそこはウマイ!って思った。ちゃんとタイトルにつながるし。
ウォーリー サビ男っていう名前と込みでね。
黒田 そのまえに海に行きたい、でも行けない、という話があって、砂に戻るからそのあと海に行ったら砂浜で会えるよ、みたいな話になるんかなって思ってた。砂浜とか砂漠なんかは僕のコンセプトにもあるし。サビ男が、あちこちもう行ったから100年後に行きたいって言うのは予想外で、ちょっとぐっときた。僕らにはムリやけど、あの少年にはぎりぎり行けそうでしょ。その微妙な切なさがいいなって思って。
ウォーリー 展覧会を見て最終回を読んでくれる、その人たちはまた違う感想を持つかもしれないですね。
星川 この小説って、いろんな段階の人がいると思うんです。展覧会を見てなくて小説だけ読んでる人、ずっと前から読んでいて展覧会を見た人、展覧会を見にきて初めて読んだ人。その温度差というか、その段階の違いがおもしろいですよね。

ウォーリー 僕の中でのライバルは「FRAGMENTA」を書いてきた阿守さんだったんです。あの曲すごく好きで、僕としては「FRAGMENTA」が出来たときに、こっち取られた、どうしよーって思った(笑)。実はね、物理的にどのシーンが時間かかったかっていうと、あの砂文字の【FRAGILE】っていう言葉を見つける作業だったんです。ほんと丸一日やってて。僕が思う、「百年後の博物館」の中で使える英単語は何かと。文字並べるゲームも展示されるの分かってたし。別にあの単語自体を謎解きとかに使うつもりはなかったんです。でも絶対、後半を引っ張っていく単語だなと思っていて、結果【FRAGILE】になって「FRAGMENTA」とももちろん繋がってるし。でも「FRAGMENTA」に若干先にやられたなって思いつつ(笑)。たぶん語源は一緒だと思うんです。小説のラストシーンはサビ男が砂に戻るというイメージがあったし、あの女の人は旅行で来てるから、鞄に【FRAGILE】ってラベル絶対貼ってるってことにも気づいて。
黒田 さすがウォーリー、海外旅行いっぱい行ってるだけあるわ(笑)。

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